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「ん…………う、う……」
くぐもった少女の呻き声が室内に反響する。真っ白な部屋を照らす明るすぎる照明は、不気味なほど物体の影を奪う。白い光に照らされた少女の顔は絶え間なく落ちる涙に汚れていた。
少女の身体は鋼鉄の椅子に縛り付けられ、身動き一つ取れない。轡を噛まされた口からはぼたぼたと涎が垂れ落ちている。
私が歩み寄ると、少女は怯えた顔を更に引きつらせて震えた。
「う……、う…………、……!」
恐怖に見開いた目が私を捉え、表情だけで懇願する。助けてくれ、殺さないでくれと。
そんな何百回何千回と見てきた命乞いに今更感じるものもなく、私は眉一つ動かさずに少女を見下ろした。少女はただの人間。つまり、 我々にとっては家畜に過ぎない。喰われて死ぬだけの餌だ。
ーー最も、私にとっては同族も人間もさして違いはなかったが。
「う、うう、ふうう…………!」
少女は必死に視線を送り助けを乞う。さすが、天然ものの家畜は活きが良い。
「彼女、何か言いたそうだよ? 聞いてやったら?」
私の隣に立つ男が言った。この状況に見合わぬ朗らかな声に、少女もそちらに視線を送る。
「何をおっしゃるのです。わざわざ悲鳴をあげさせる必要はないでしょう。舌を噛んだらせっかくの身体に傷をつけることになる」
「命乞いくらい聞いてあげようよ。彼女という生命の最後のひとときなんだよ?」
「私の趣味ではありません。それとも、命令ですか?」
「うん、命令。取ってあげなよ、スカロ」
渋々少女の後ろに回り、轡を外した。涎にまみれたそれを傍らの器具台に置く。
「あ――は、あ……」
少女は息を吐き、目の前の男を見上げる。
「た、すけて……おねがい、たすけて……」
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